コラムと事例 -Column & Case Study-

先進企業に聞く海外研修のノウハウと効果(3/3)

(2013/08/01)

「先進企業に聞く海外研修のノウハウと効果(2/3)」からの続き

7. 会社にとって海外研修とは?
WG
今のお話にあった「社内の意識を変える」という点に関連して、昨年本WGの議論の中で「経営陣の目線を如何にグローバルに向けさせるか」がポイント、という意見が出ました。 新人全員を海外研修に出すどころか、一人を出すだけでも、「貴重な戦力をxヶ月も海外に出してどうするつもりだ!」という批判が出るのが現実という企業も少なくないのですが、何かご意見はありますか?
B社
企業ですから、当然、投資対効果を考えることは必要です。予算面の制約もありますから、海外研修が、ダイバーシティとか、語学力とかのみを目的とするのでは現場の理解も得にくいことは事実です。ですから、いかに現場の実務とも繋がる内容を用意するかを課題として捉えています。
C社
経営陣は外部の風には敏感ですので業界全体として盛り上げていくことは重要かもしれません。その意味でA社、B社のような活動がマスコミ等に取り上げられることは効果的ですね。 確かに費用や、研修の内容と目的の整合性を考えると、どれだけの意味があるのかという意見が社内で持ち上がるのは理解できます。 そもそも、能力やマインドがある人は、わざわざ研修とか考えなくても、どんどん海外に出してしまえば自分で成長します。むしろそれ以外の人たちをいかに巻き込み、必要性を認識させ、自己啓発に向かわせるかがポイントでしょうね。この点はまだこれからという段階です。
WG
実際に海外研修を制度としてスタートし社内の雰囲気が変わったとか、受講生の受講姿勢が変わったとかいう事例はありますか?
B社
受講直後は上がっていましたね。しかし、時間が経つにつれて日常に埋もれてしまい、下がってしまうというのが現実です。そこで2年目のフォローアップを実施した際、2日間ネイティブと会話する機会を設けました。 するとネイティブの講師の方からは何もしていない人と比べて違いがあるとの評価を受けました。決して英語がうまいとか、文法が正しいとかいうのではなく、堂々と自信を持って意見を主張するとか、積極的に話しかけてくるといった姿勢が経験者はしっかりできているという評価でした。
WG
様々な調査結果を見ると、企業の大きさでグローバルに対する意識にも違いがありました。特に本日お越し頂いている各社は企業規模が大きいこともあり、大量の人員を海外に派遣することで、一気に社内のマインドを変え、グローバル化を推し進められるのではないかと思いますが、どうでしょうか?
A社
実際にやってみるとそんなに単純でもありません。やはり企業そのもの、或いは経営層がグローバル化への明確なビジョンや方向性を持っていないと、グローバル人材育成だけ先行してもうまくいかないと思います。 当社でも集団海外研修を実施し、グローバル化に向けた対応を行っていますが、これ以外にも、海外現地法人の社員を期間限定で受け入れるということも行っています。しかし、社内では「急に外国人を送り込まれても対応できる人材もいなければ、与える仕事も思いつかない」などの意見が大半で、実際にまだまだ受け入れられるセクションそのものが限られているというのが現実です。 ただ、こうしたことを繰り返し、職場環境を変えていく努力は必要だと思います。従って、こうした研修を繰り返すことによって一定数同じ経験を持つ人材が増えれば会社の雰囲気や周囲の考え方も徐々に変わってくるのではないかと思っています。
WG
日本の製造業の場合、グローバル化はある日突然やってきたという印象だと聞きました。皆さんのような大企業で、そうした兆候は感じられませんか?
B社
売上全体に占める海外売上比率はまだ小さく、実感として薄いです。ただ、製造業や流通業の顧客はどんどんグローバル化しており、IT業としても顧客についていかざるを得ない状況にあるのは事実です。
C社
海外拠点には多くの日本人社員を派遣しています。実際には買収先企業や現地雇用の人材に比べて日本人駐在員はコスト的に高く、「グローバル人材とは海外に赴任する人」という考え方は変えていく必要があります。それでも顧客企業が海外進出する中で、いつ自分が海外との連携プロジェクトにアサインされるかなど誰にも予測がつきません。そういう意識や緊張感を社内に持たせることは重要だと思います。準備していないと、急にやれと言われても突然にはできないものです。それは個人だけでなく、組織とて同じことだと思います。

8. 海外研修成功の鍵は?
WG
大分長時間にわたってお話しを伺ってきましたが、最後に海外研修を成功させる鍵があったら教えて頂けないでしょうか?
A社
やはり目的の明確化ではないでしょうか。 何のための研修なのか、何を目的としたグローバル化なのか、それがはっきりしていれば、人選も選定基準がはっきりして適確になります。さらに、目的に応じて用意する研修プログラムもより精緻化することができますので、参加者の納得感、達成感も大きく違ってきます。 それだけに上級技術者や幹部向け研修はプログラムの構築が難しいというのが本音です。 もう一つは、渡航する人に対し、明確に役割を認識させることが重要です。漫然と行ってくるだけでは何も身に付きません。当然それぞれの実力に違いがありますから、相手構わず同じミッションということでは無理があります。それぞれのスキルレベルに合ったミッションを与え、どのような成果を達成するのかを共有しておくことが大切です。
B社
事前準備は重要です 語学は渡航時の基本なので、できる、できないということよりも、渡航前に本人も会社も正しく実力を押さえておくこと、また現地で慌てない程度にネイティブと話すことはしておいた方が良いでしょう。 海外研修の目的は座学ではなく実践の場であることです。ですから現地でのアクティビティには演習など現地の人たちと協力して行うような活動で、かつ実際の業務と繋がるようなプログラムを用意することが必要だと思います。
C社
研修は行って、帰ってくれば終了というものではありません。 研修直後のスキルやモチベーションをどう維持するかによって成否が決まるともいえます。従って帰国後の実践の場の提供、或いは将来に向けた活用の可能性の提示といったフォローが重要です。そういう意味で周囲の環境、特に上司や幹部の理解がポイントです。
WG
非常に参考になるお話を聞かせて頂き有難うございました。

ポイント
今回は既に社内で独自に海外研修を実施している日本のITサービス企業3社のお話を伺うことができた。 新卒採用した新人をいきなり10人単位以上で海外へ研修にだすということは、なかなか中小企業にマネのできる話ではないが、事前準備の必要性やカリキュラムの概要は共通する項目であり、大いに参考になった。 また、WG内でも何社か海外派遣研修を実践した会社から、帰国後の処遇の難しさや離職を引き留めるための策に対する課題が出されていたが、話を聞かせて頂いた企業でも同様の苦い経験を有しているようで、これに対応した現場との連携や協力が必要というお話も参考になる内容であった。 JISAでは海外研修を提供している企業と連携し、JISA会員企業が安く、各社1,2名ずつでも参加できる研修の紹介を開始した。 グローバル人材を育成することは結果として日本のIT産業全体にとってプラスになると思われる。その意味で業界をあげて取り組みたい課題である。

海外研修成功に向けた5つの鍵
* 目的は明確に
何のための研修か? 何のためのグローバル化か? その目的のために企業が会社全体として何をすべきか? 研修に出す部門や上司も、研修に送りだされる候補者も、それを正しく理解し、共通の意識のもとで行動することが必要。
* 準備はしっかり行う
初めて海外に出る人もいるだろう、初めて訪れる国かもしれない。特に新興国であれば安全面や衛生面など、基本的な知識や常識はきちんと知らせておくことが重要。
* 研修後の処遇等も事前に検討
選抜時点から上司や部門の理解を得ておくことは重要。さらに帰国後の復帰業務についてもあらかじめ現場と話し合い、被選抜者も含め認識を統一しておくことで、将来に向けた研修生のモチベーションアップにつながる。
* 語学だけが海外研修の目的ではない
1年以内の研修期間で完全なる外国語のマスターを目指すことは現実的ではない。多くの日本人は中学、高校で6年間、大学も含めると10年近く英語には接しており、潜在的にはかなりの英語力を保有している。その意味では海外研修は、経験を通して外国語で会話をすることに慣れたり、外国人と話すことに馴染むことを目的にすればよい。むしろ異文化社会におけるさまざまな考え方や生き方を知ることで、発想が拡がるという点を期待すべき。
* 企業全体の意識改革の重要性
グローバル化は個々人のスキルアップで解決する問題ではなく、むしろ企業全体の問題として捉える必要がある。 その意味でも企業は、グローバル化がその企業の現在や将来に対しどのような影響を及ぼすと考えているのか、そのためにどうなろうと考えているのか、そしてどのような社員像を必要としているのかなど、具体的なメッセージを宣言することが大切である。

グローバルビジネスハンドブックより