コラムと事例 -Column & Case Study-

先進企業に聞く海外研修のノウハウと効果(1/3)

(2013/03/18)

WG
本日はお忙しいところ有難うございます。 私どもワーキンググループ(以下WG)では日本のIT企業におけるグローバル化を考える上での基本となる「人材の育成」をテーマにIT産業におけるグローバル人材の定義、意味を考えると共にその育成について検討を行ってきました。
その議論の中で、人材育成はやはり実際に海外で研修を行うことが効果を生むだろうという意見が多く、JISAを通じて会員企業向けの海外研修プログラムを紹介していますが、実際に人材を送り出すとなると、「どのような人材を選抜すべきなのか?」、「どのくらいの費用対効果が得られるものなのか?」など、さまざまな疑問が寄せられました。そこで、既に海外研修を実践している企業のみなさまに直接インタビューをさせていただき、研修の目的、効果、遭遇した課題や、実践を通じて初めて気付いた事柄などを伺い、会員企業の参考にできればと思います。どうぞ宜しくお願い致します。

1. 研修概要について
WG
まず各社海外研修をどのように実施していらっしゃるのか、お聞かせください。
A 社
当社が海外研修を開始したのは2003年です。インドでソフト開発系新入社員約50名の研修を行うという企画を立案しました。社内では新人を50名という規模で送ることに反対意見も少なくありませんでしたが、重要性を説き、現地の提携先企業と連携し、宿泊施設の確保やプログラムを検討し、実施しました。
WG
そもそもの研修目的はどこにあったのでしょうか?
A 社
当時、日本企業のグローバル化という流れの中、当社としても世界に目を向ける必要性を感じており、国際的な視点を持った人材の育成が必要との認識から、若いうちに海外経験をさせて視野を拡げることはプラスに
繋がるだろうという狙いもありました。しかし、真の目的は、新入社員が言葉も通じない異文化の中で、独力で物事を解決する自主性や問題解決力を養うことが必要であり、そのための研修でした。 環境的には、決して不衛生とか安全面で問題があるわけではありませんでしたが、シャワーからお湯がほとんど出ないとか、人によってはシャワーから烏龍茶が出た(笑)というほど、日本の生活から比べるとひどい状況でした。よって、目的である自主性や問題解決力という点については効果があったと認識しています。 その後、オフショア開発に必要な語学力、技術力を身に付けることを目的にPM、SE向けの研修も行いました。 特に技術者として現地のユーザやパートナーと交渉する時の「交渉力」や「リーダーシップ」を身につけることを主眼に現地でのワークショップを中心とした研修としています。
B 社
当社の海外研修に対する取り組みは2009年開始で、まだ始めたばかりです。IT業界にありがちですが、国内に目が向きがちで社内の意識がグローバルに向いていませんでしたので、会社の意識変革と併せて検討が始まりました。会社としては2015年までに海外売上を全体の10%にするとの目標を掲げ、それを達成するための要員育成を図るということでスタートをしました。具体的には2010年度からの3ヵ年計画を立案し、3年間で700名を海外に派遣するプランとし、またグローバル人材としてのスキルを定義し、研修ポイントを決めました。 2010年度から新人を全員海外に派遣する施策を開始しました。研修目的は、ミクロ的な視点から(社員個々人の観点から)、グローバルマインドの醸成、グローバルビジネススキルの進化、語学力の向上と継続的学習意欲の芽生えを掲げました。 マクロ的な視点としては、全社員の意識改革などの波及効果、対外的アピール、リクルートを含む潜在的グローバル人材の誘引と発掘などを目的としました。事前に国内で基礎教育を実施し、渡航1ヶ月前に現地渡航に向けた安全対策や生活情報など基本的な知識に関する研修を行いました。実際の海外研修はベトナム、フィリピンでの20日間の研修としました。
WG
国内事前研修はどのようなことを実施したのですか?
B 社
入社前の内定段階からグローバル化の必要性を訴え、入社式でも必要性を伝えて動機形成を図りました。そのうえで、国内基礎教育として約3ヶ月間の集合教育期間中に、マインド醸成・ダイバーシティ・論理的思考力・レベル別英語学習法といった基礎講座を実施しました。 渡航1ヶ月前にはオリエンテーションとして基本的な生活をするうえでの注意点や文化の違い、安全面での諸注意を教育したほか、研修生の語学レベルの定量的な評価として現地で実際に担当するトレーナーを相手に10分から15分程度の電話面談を実施しました。
WG
海外の研修はどのようなものだったのでしょうか?
B 社
2010年度はベトナムとフィリピンを渡航先として選定しました。 実施時期は6月から翌3月まで1ユニット15名程度の構成で計12回。各ユニット20日間ずつ行いました。現地では到着当日にオリエンテーションがあり、現地での生活ルールや宿泊施設等居住環境に関連する基礎的な事務連絡などを行い、夜はウェルカムパーティで現地トレーナー達との交流を図ります。各講義には、日本人3人毎に現地人1人の割合で現地人財(大学生・同世代社会人)も参加し、常に英語を話す環境を形成しています。次に1日かけてチームビルディングを行い、その後の実習に向けた体制を作ります。研修生の職責に応じて、SE向けと営業向けの2コースを用意しました。具体的には、SE向けはアプリケーションとネットワーク構築に関わる架空プロジェクトをもとに、最終的には現地PMにプレゼンテーションを行うという内容。また、営業向けはセールススキル向上を目的に、架空の顧客を相手に先方のニーズを聞き出し、提案やセールス交渉を行うという内容でした。 この他にも現地の企業訪問や、ボランティア活動への参加、ベトナムでは植林の手伝い、フィリピンでは貧困地域でのボランティア、といったアクティビティをそれぞれ1日ずつ実施しました。 活動時には貸切バスで移動しますが、現地スタッフの学生や社会人が必ずバスのとなりの席に座ることを原則とし、常に英語でコミュニケーションをとるという環境にしました。
C社
当社は海外企業のM&Aによるグローバル展開が中心であるため、グループ売上に占める海外売上はおおきいものの、社内は依然ドメスティックな意識が強いという現状です。 海外派遣プログラムも既に15年以上の実績がありますが、公募制であったことから、海外に興味のある人材が応募して派遣されるものの、帰国すると社内で期待する仕事につけないなどの理由で辞めてしまうケースが散見されました。 こうした反省から近年は各部門からの推薦制も導入し、派遣先もお客様を含め、関係会社など関係のある地域や国にすることにしました。これにより帰国後もそこで得た経験や業務を元に自身の将来を考える人材が増え、辞める人も少なくなってきました。 MBAコース等への留学制度も実施していますが、こちらも同様で、以前は公募中心だったのを、近年は推薦を中心とすることで離職率は圧倒的に下がっています。 当社では、A社さんやB社さんの実施しているような集合研修は、これから本格化しようとしている段階です。 また、幹部層向けのグローバルプログラムも行っています。これは日本人に加えて、海外現地法人の外国人幹部クラスをドイツの施設に一同に集めて行うもので、グループの事業戦略や顧客のIT戦略、将来の事業機会といったテーマで、グループ討議を徹底的に行ってもらいます。 一方、入社5年目の社員を対象に、インドで8週間ほど、1グループ20- 30名の構成でグローバルマインド醸成のための研修を、さらに2年目社員を中国に派遣するプログラムも始めています。

2. 渡航先の選定について
WG
集合研修については、インドや中国、東南アジアという地域が多いようですが、渡航先の選定にはどのようなところがポイントになったのでしょうか?
A社
当社は提携先企業がインドにあったということも理由の一つですが、もっと大きな理由としては、インドは日本人にとって文化的に大きなギャップがあり、当社が研修の目的としている「問題解決力養成」という観点に合致すると考えたからです。また、英語が中心の国であること、人件費が安く、物価も安いので、飛行機代などの諸経費を考慮しても全体として米国等へ派遣するよりはるかに低コストでした。また、論理的な思考を身につけるという観点でも、インド人の考え方、ビジネスの進め方、グローバルスタンダードに準拠したソフトウェア開発手法、管理、プロセスなどが研修に適していると判断しました。
B社
選定のポイントは、派遣先の受入・サポート体制が重要であり、当社グループ進出先である中国・東南アジアを対象として検討した結果、研修プログラムや現地でのサポートサービスを提供できるエージェントがあるベトナムとフィリピンが初年度の対象となりました。2011年度は中国も対象に加えることになりました。

グローバルビジネスハンドブックより