私たちは、ここ2年で、タイのソフトウェアEXPO(2013年)出展、東南アジア各国で実施計画のあった日経BP社主催アジアICTカンファレンスへの協力、バングラデシュでのITビジネス環境調査、バーレーンでのビジネスセミナー・商談会開催などのプロジェクトに関わってきました。
また中国ローカル市場への進出というのも重要なテーマの一つでした。しかし残念なことに、日本製のソリューションをローカライズし、現地で受け入れられているという例はまだあまり耳にしません。
ではいったい、どのようなソリューションであれば現地に受け入れられやすいのでしょうか。
まず、新興市場、途上国市場では、情報システム運用を安定的に行える、ソフトウェア開発を効率的に行える、メンテナンスがし易い、などの特徴のものでは、基本的に勝負できないと思われます。
一ついえるのは、インプットとアウトプットの関係が明確なシステム、そのシステムを入れると何の業務に使えどのようなメリットが考えられるかがわかりやすいシステム、こういったものが受け入れられ易いといえます。苦労して説明しなければならないようなシステムは、現時点では、どんなに品質が高く技術的に優れた製品であったとしてもパートナーを見つけるのも販売するのも難しそうです。
従って製品のプレゼンテーションにおいても、どこが優れているかを説明するより、何をインプットするとどういうアウトプットが出てくるかを明確に示した方が、商談会などにおいても圧倒的に関心を集めることができます。
企業ソリューションでいえば、ERPのソリューションがわかりやすいです。システムの要求に従って、必要なInputがなされれば、経営に必要な情報は一通りOutputされるわけです。Outputをどう使えるかも、誰にでもわかりやすいのです。 料金徴収に関係するシステムなどもわかりやすいです。料金徴収が確実に行え、収益の改善効果を明示できれば、それに見合った形で投資は行われます。
IoTの分野などは世界中で注目が集まっていますので、多くの方に興味を持っていただける分野でもあります。この分野は日本企業にとっては一日の長がある分野と思われますので、センサーを利用したシステムなども有望分野と思われます。農業や漁業への活用も検討されています。
このような技術や製品を結び付け、管理コストを節約でき、収益改善に効果があり、ビジネスに直接的インパクトがあるシステムが新興国には一番訴えやすいと思います。ITサービスやソフトウェアベンダーだけでは無理かもしれません。異業種で共同開発する形が良いようにも思います。
さて、何を日本のIT産業の強みと考えるかは難しいところです。
日本のシステムインテグレータやソリューションプロバイダーの得意とするところは、ユーザーの要求に沿った、バグのない高品質、トラブルが(少)なく信頼性の高いシステム、ダウンしないシステムとその作り込みにあるともいえます。
しかし、海外ではシステムダウンは日常よく見られることであり、人々はそれに不満を覚えつつも「システムとはそんなものだ」という形で受け入れられているといえます。1つがダウンすれば別のシステムを使えばいいとか、ATMであれば別の所のATMを利用すればいい、という行動を普通にとっているわけです。システムに対する期待は日本ほど高くないのです。
銀行のシステムが10分ダウンしたら、あるいは電車が10分遅れたら、新聞やテレビのニュースになる日本とは国民性や文化が違うのです。このような日本だけの特徴にあわせたシステムは、結局のところ高額で、またローカライズにも時間がかかり、使いこなせない複雑なものとなります。
ある外国人社長は言いました。
「日本の製品は信頼性が高く多機能でとてもよいが、海外では使いこなせないし、コストが高く売れない。海外向けにどんどん機能をそぎ落とし、必要最小限にしてコストも下げて販売する必要がある。日本の信頼性、品質が高いというイメージは強いので“Japan”というブランドが欲しい。自分がうまくやってやる」
かなり矛盾のある論理展開ですが、最低限の信頼性でいい、ほかよりちょっとだけ信頼性が高く、ひと味違う機能がついていればそれでいい、ということを正直にあらわしています。できるだけ高い信頼性、ふた味以上違う機能は、求められないともいえます。
リスクを嫌い、穴を徹底的につぶしていく考えからは許されない思想とも思えます。
GPS、モバイル、クラウドなどのトレンドとなるキーワードを組み合わせながら、簡単でわかりやすく使いやすいシステムを、安く、早く提供できる、これが世界のローカルマーケット進出へのカギでしょう。考えようによっては難しくありません。おそらく優秀なプログラマー何人かと対象分野に精通した専門家が必要でしょう。最も大きな問題点は、(工数ベースの観点で言えば)おそらく大がかりで複雑なシステムとはならないため、利益は薄くうまみの少ないように思えることです。しかし、まず、日本のテクノロジーを浸透させることが第一でしょう。
高信頼性、高負荷価値を売り物にして行けるかは、上記の競争の勝ち組となった後の戦略として考慮すべきものと思います。日本に来れば、誰でも、高度化された信頼性の高い社会やそれを支えるシステムに感心するでしょうが、海外に戻ればそれは必要ありません。今のところ。こういったものは、お金に余裕のある裕福な国の政府が関心を持つか、日本政府のODA紐付き予算を活用して相手国政府・社会資本に対して売り込むべきもので、民-民ビジネスではありません。新興国ローカル市場は、まだテクノロジーに払えるお金は少ない、しかし最新のモバイルなどには関心があり、それをうまく利用すればそれなりのシステムを作ることができ、当面はそれで十分な市場である、ということです。