APICTA 特集 -海外ソフトウェア製品コンテスト出展体験報告-
○APICTAって?
APICTA -Asia Pacific ICT Alliance (アジア太平洋ICT連盟)- は、アジア太平洋地域17カ国のICT関連組織(業界組織やコンピュータ学会など)で構成されている団体です。JISAも2016年、この組織に試験的に加入しました。
この組織は、アジア太平洋地域のICT利活用や産業の発展に貢献することを目的としていますが、そのための手段としてAwardを創設し、優秀な製品や開発チームを表彰することによって、ビジネスマッチングや製品・ソリューションの開発・販売促進、人材育成に役立てようとしています。
APICTA Awardの選出と表彰は、年に1度行われます。各国のメンバー組織より推薦された候補を対象としてプレゼンテーションとプログラム紹介の機会が与えられ、それに基づき審査が行われます。
まず推薦を受けるために各国の国内コンテストや予選(学生プログラミングコンテストなど)をクリアすることを条件としているところもあるなど、国によって違いはありますが、非常に熱心な取組が行われています。
JISAでは、昨年12月に行われましたAPICTA Awardにて、会員企業である株式会社網屋の「Amigram」というソフトウェアを候補として推薦しました。また、審査を行う委員として、大須賀正之(CAC常勤監査役)、柴崎正道(網屋取締役)の両氏に協力をお願いしました。
今回は、網屋代表チーム(高橋さん、石田さん、米澤さん、+伊藤社長)の方々には、APICTA Awardsに出展し、外国向けにプレゼンテーションを行った体験に関する感想や苦労話、そして審査員として参加のお二方には、表彰の選考過程はどのようなものか、外国人視点での審査基準はどのようなところに重きがあるか、についてインタビューしました。インタビュアーは、NECネクサソリューションズ株式会社の宮越一郎さん(本WEBサイト編集長)です。
以下、グローバル人材の育成・活用や、外国人視点でのソリューションやPR方法の評価基準など、海外ビジネスや人材育成に携わる方には、ぜひ参考にして頂きたいと思います。
○APICTA出展チームインタビュー
-出展準備編-
インタビュ-の様子(左から:インタビュアー宮越さん、
網屋・高橋さん、石田さん、米澤さん)
インタビュアー:
APICTAの写真をいくつか見させていただきました。かなり盛大に行われていたようですね。
米澤さん :
そうですね。かなり盛大に行われました。
インタビュアー:
APICTA Award応募までの準備等、分担しながら進めましたか?
米澤さん :
今回は応募まで準備時間がなかったので大変でした。ただ、他の国の方々は時間をかけて準備し、現地へ乗り込んで来ているように思います。
高橋さん :
役割分担としては、APICTA事務局とのやりとりを米澤が担当し、資料作成、また、提出書類等は全て英語となりますので、石田と米澤2人で担当しました。現地でのプレゼンはもちろん全て英語となります。担当したのは語学堪能な牧野という若手社員が担当しました。
インタビュアー:
今回、APICTAに応募することについてどう思われましたか?
石田さん :
米澤は前回のAPICTAにJISAの国際活動を兼ねて参加していましたので、イメージはある程度できていたと思うのですが、他のメンバーに関してはAPICTAという名前自体も知らない状態で始まりました。実際にはエントリーシートを埋めていく中で、ようやくAPICTAの詳細が少しずつ分かってきたという感じですね。
インタビュアー:
英語での資料作成、プレゼン等、抵抗感みたいなのはありましたか?
石田さん :
英語のプレゼン自体は牧野という語学ができる社員が担当しましたので、特段心配はありませんでした。
-当日のプレゼン編-
インタビュアー:
プレゼン当日の会場の雰囲気はどうでしたか?
米澤さん :
そうですね。すごい緊張感を感じる会場でした。本番前、プレゼンの最終確認などをする待合室(リハーサル室)があるのですが、そこでは他の国の方々の緊張感が伝わり、このAwardにかける意気込みを感じました。プレゼン担当の牧野もそれを見てまたさらに緊張していました(笑)
インタビュアー:
実際のプレゼン時間はどのくらいでしたか?
米澤さん :
プレゼン開始準備、実際のプレゼン、質疑応答、撤収時間、全て含めて30分です。かなり時間厳守で行われます。
インタビュアー:
初めての応募となりましたが、当日の出来はいかがでしたか?
米澤さん :
英語のプレゼンを行った牧野はよく頑張りました。資料を作る時間が余り無かったというのが反省点ではありますが、プレゼンの出来は練習時間をいかに作れるかというところに尽きると思います。
石田さん :
とにかく重要なのは、プレゼンで審査員にいかにアピールできるかだと思います。
インタビュアー:
英語の資料を作る上でご苦労されたことなどはありますか?
石田さん :
一番難しいのはターゲット、誰にこのプレゼンを聞かせるかですね。
インタビュアー:
普段、お客さまに説明をする時との違いや工夫を聞かせて下さい。
石田さん :
学生も応募する大会なので、最新技術を用いたプロダクトを見せつつも、現実に稼働しているということを、分かりやすく説明したり、資料を作ったりする難しさがありました。
インタビュアー:
例えば、プレゼンの時に技術的な強みにポイントを置くのか、それとも実績にポイントを置くのか、どこにポイントを置きましたか?
石田さん :
技術的なところにポイントを置いたのですが、そこに重きを置きすぎた、というのが今回の反省点です。
インタビュアー:
プレゼンでの質疑応答ではどんな質問が審査員から出ましたか?
石田さん :
私たちは製品説明、つまりその製品で何ができるか、というプレゼンをしてしまったので、既存の他の製品との違いなどについて聞かれました。あと価格についても聞かれました。非常に答えにくい質問ではありましたね。(笑)
海外向けにサービスをダイレクトに展開できないのか?という質問もありました。
インタビュアー:
それらの質問は想定内でしたか?
石田さん :
問答集というのは作っていて、想定内といえば想定内でした。
-イベント紹介編-
インタビュアー:
APICTA Awardにチャレンジしてみて、この点は良かったと思えることはありましたか?
石田さん :
普段、普通に仕事していると、あのような雰囲気や様々な国からの参加者が一堂に会し、受賞に向けて競い合うということは日本国内では経験できません。
米澤さん :
参加者の皆さんは、国の代表として受賞を喜び、自国の国旗を大きく掲げ受賞のために舞台にあがり、同じ挑戦をした他国も歓声をあげて受賞国を称えます。なんとなくワールドカップのような雰囲気です。
インタビュアー:
他の国々との違いを感じましたか?
石田さん :
企業の規模などに大きな違いは無いと思いますが、他国はとにかく新しいプロダクトで応募しているところが多かったですね。まだ市場に出る前のプロダクトもありました。
インタビュアー:
評価基準は事前にご存じでしたか?
高橋さん :
評価基準はAPICTAホームページに公開されています。
石田さん :
応募の際のエントリーシートにも記載されていました。
インタビュアー:
APICTA自体の審査以外にも、行事が行われていたようですが?
米澤さん :
Taiwan NightやHong Kong Nightなど、APICTAホスト国や、参加国が主催し、APICTA参加者が交流をはかることができるパーティーのようなものが行われていました。Hong Kongから参加していた小学生のチームもいて、自分たちが応募したプロダクトを、パーティー参加者にも紹介していました。またそのような場ではAwardの審査員の方々ともお話しする時間が持てたので、有意義な時間でした。これも日本にはない雰囲気がありましたね。
インタビュアー:
他の国では学生も多く応募していると聞きましたが、日本では企業と学生が一同に会し、同じイベントに横並びで参加するイベントはなかなかないと思いますがどうでしたか?
米澤さん :
学生にとっては非常に励みになると思いました。あんなに盛大な場所に参加したり、Awardを受賞できたり、受賞できなくても次はもっと頑張ろうと思えたり、将来プログラマーになるような若い世代にとっては刺 激のある場所だと思います。
また、プレゼン以外に「APICTA Studio」というのがあり、ここでは自社製品をLIVE映像でアピールできる仕組みもありました。
そこで、他の国のLIVE映像も見させていただきましたが、他の国の子どもたちのプレゼン能力の高さにすごく驚かされました。英語もパーフェクトでしたし、すごく練習していて、完成度の高いものでした。タイから応募してきた子どもたちは4人組で、それぞれの役割分担がしっかりと決まっていて、まとまったプレゼンになっていました。
-イベント後の感想編-
インタビュアー:
今回、網屋さんはRecognition Awardを受賞されましたが感想は?
石田さん :
結果がついてきたということは嬉しいことです。努力の甲斐があったなという感じです。
インタビュアー:
受賞した時の周囲からの祝福などはありましたか?
石田さん :
特に社内での反応はありましたね。実際に現地に行った私たちプレゼンチーム以外でも、デザイン、マーケティングを担当した部門がありましたから、みんなの力を1つにして受賞できたという喜びがありました。
米澤さん :
プレスリリースに掲載し、今後、海外展開していく上で、良い宣伝になったように思います。数人ではありますが、お客様からも祝福のお言葉をいただいたりもしました。
インタビュアー:
今回は日本からのエントリーは初めてとの事でしたが、もし、今後日本からこのAPICTAに応募する企業があれば、その企業に何かアドバイスはありますか?
米澤さん :
私たちは今回、製品として完成しているものを応募したのですが、新しい製品を応募するほうが良いと思いました。また準備期間ももう少し長く取れたら良かったと思います。
若いエンジニアの方がこのような発表の機会や、国外に出て、様々な国の会社のエンジニアとの交流を持つことは非常に良い経験になると思います。仕事に夢をもつ良いきっかけにもなると思います。
高橋さん :
技術を全面に出すことよりも、審査員にどれだけ驚きをアピールできるかがポイントになってくるように思います。我々の反省点は技術を前面に出してしまったことです。この製品にはこんな夢がある!というところをアピールできると良かったですね。
インタビュアー:
APICTA受賞後、仕事に変化はでましたか?
高橋さん :
当社では海外での仕事もありますので、英語資料も多くあります。一度作った英文資料はなかなか見直すことがないのですが、APICTA応募は一から見直しを行う良い機会になりました。
インタビュアー:
APICTA Awardにまた参加されたいですか?
米澤さん :
今度は若いエンジニアの方々に、ぜひチャレンジしてもらいたいと思います。
-トップインタビュー- 人材育成とビジネスに役立つ
インタビュアー:
最後に、網屋の伊藤社長にお伺いします。今回、APICTAに応募したことは良かったですか?
伊藤社長 :
APICTAのメンバー国は、日本からの初めての応募に喜んでくれたと思います。受賞したメリット自体はあまり多くないかもしれません。ただ、当社はJISAの国際活動にも積極的に参加させていただいて海外人脈を築いてきましたが、このAPICTAでもまた新しい人脈が出来たように思います。
次回は新入社員も含め、入社3年目くらいまでの社員に、自分たちで考えさせ、やらせてみようかと思っています。JISAの国際委員会、グローバルビジネス研究会でもいつも議論していますが、日本人は海外で英語でのプレゼンが苦手です。そういったことへの訓練の場としても、このAPICTAは非常に有意義な場所になると思います。各国、複数の企業がエントリーしていて、大変盛り上がっているあの雰囲気を、当社の他の社員にも経験させてやりたいと思います。そういう意味でJISAが日本のAPICTAの窓口でいて欲しいという希望はあります。またJISAの会員企業にも、是非応募してみてほしいと思います。
インタビュアー:
最後の質問です。この経験で得られたものはビジネス的効果と人材育成的効果、それぞれどのくらいの割合でしたか?
伊藤社長 :
割合というよりも、このチャレンジは人材育成であり、人脈形成であり、それは結果的にビジネスに繋がっていくと思っています。